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旅行記 [5]
[5]

私たちは息をのんだ。
たぶん一分間は、何もいえなかった。
高い所から、突然突き落とされた分、
受けた衝撃は相当だった。
私の頭の中では、
物凄いたくさんの言葉が
整理しきれずにぐるぐるとした。
今までの彼等を信頼するか、しないか。

アシームはもう一度言った。
「マニー」
冗談じゃなく命の危機をかんじた。
アシーム従兄弟は無表情で立っていた。
何をおもっているの。

彼等を読むことが突然できなくなった。
頭がパニックになった。



私たちは、この兄弟を雇っているホテルに、
ツアー代として、もうお金をはらってある。
もしかしたらそのお金は彼等を斡旋しているホテルのものなのか。
でもそうだとしたら、ホテルから給料をもらっているはずだ。

色々な可能性を一瞬で考えた。


このホテルでは、何度かリトルボスともめていた。
そもそも駅で客引きにあい、ここに連れてこられたのも、
かなり強引で、かなりうまい手口だった。
ホテルでとった食事代の請求だと突然部屋に現れたインド人に、
何の疑いもなく支払い、
のちにそのインド人は全く関係のない人だと言われた。
友達がそのことに切れて我を失いかけたこともあった。

確かにリトルボスはこのツアーを100ルピーだけだといっていた。
少し安いと思ったけど、
リキシャの相場と食事代を考えると、まぁ妥当な値段だ。
もしかしたらアシームもリトルボスに騙されているのかもしれない。
ここで彼等との信頼を崩すのは
この先の旅にとっても不安要素になる。
だからきちんと話してみることにした。 
疑う前に、真実を知る。
これも彼等から教わったことだから。

しかし望みは崩れた。
彼は突然恩着せがましく、連れていった場所を数え、
私たちにたくさん世話をしたことを主張する。
「僕には家族がある。
 今までのツーリストは、たくさんお金をくれたよ。
 俺はみたよ、
 シルク屋でたくさんのお金を出していた君たちのことを。
 シルク屋にあんなにお金を出せて、僕らには払えないのか。」
と。
思い出と、彼等の働きっぷりを見ていれば、たしかに多めに払う気持ちもわかる。
だけど私が見つけた答えはそんなんじゃない。
でもこういう複雑な感情を表現する力が、私にはない。
お金がない彼等に同情して与えてしまったら、
そこに生まれるのは溝なのだ。


  

ふと思い出した。
ヴァラナシにくる前の町、アーグラでのこと。
リキシャで高級レストランに行くと、そのリキシャマンは
「ここで待っているから食べ終わったらまた僕のとこに乗ってくれ」
という。
でも次に行きたい場所がとても遠くて、
人力ではとても間に合わないので、断った。
彼等が納得するまで何度も事情を説明して、
理解してくれたようだった。
食事をしていると雨が降ってきたので、2時間くらいレストランにいた。

しかし外を見ると、まだ彼等はまっていた。
雨の間も外にいたのだろう。
彼等はたぶんこのレストランには一生入れない。

私たちは相談した挙げ句、あのリキシャには何が何でも乗るまいと、決めた。
こんなことは日常茶飯事で、
いちいち彼等につきあっていたら、
私たちの時間と金と体力が消耗する。
はっきり断ることは、日本人にとっての課題である。


「僕には子供がいるんだ、金をくれ、乗ってくれ」
そうしつこくついてくる彼を無理やり無言で振払わなくてはいけなかった。
あまりの惨さに、決心が何度もゆるみ、
「乗ってあげてもいいんじゃないか」と言った。
でも仲間と決めた。乗ってはいけない。彼等のためにも、私たちのためにも。

それでもしつこく私たちの顔色を伺いながらついてくる。
私たちは耐えきれず、無理やり傍を通ったオートリキシャに乗って離れた。

そのついてくる彼の表情。
ボロボロのサンダルで砂利を踏む足音。
明日の命はお前にかかっているのだよと訴えかけてくるような
あの表情。その重たさ。
離れる瞬間、かれは握手を求めてきた。
申し訳無さそうな表情で。
友達は下を向いて見ないふりをした。
だけど私は耐えられず、手を差出してしまった。
その、手の感触。
そのあとワァワァ泣いた。


生きることで精一杯で、私のようなただの先進国の娘に、
コビをうって金をもらうことなんて、本当は彼等もしたくはない。
でもそんなプライドを捨ててしまわないと生きていけない。

今までのような、お金目当てで近寄ってくるインド人とは
違う気がしていたが、
アシームもつまりはそういうことだった。
本質は同じ、苦身の人間だから。

どんなに分かりあっても、そこには民族の差というものがある。
豊かな国の人ほど、そういった壁を、
きれいごとで流し去ってしまえる。
それが相手にとっても同じだと思い込んでいたのは
私のエゴから生まれた理想に過ぎなかった。
彼等は、もっとギリギリのところで生きていた。
彼等が急に遠く思えた。


私たちは、彼等に普段もらえる相場はどれくらいか聞いた。
ある日は50Rだし、ある日は500Rの時もある、
といった。

私たちは、4人でその最高額を渡した。


部屋に戻ってそれぞれが色々考えただろう。
なんだか煮え切らない気持ちと
旅に疲れた気持ち
なんだか急に無になった。
起きたことを受け入れるしかない。


でも彼等との思い出を思い出す。
やっぱりこのままじゃいけない。
私はとっさに手紙を書こうと思った。
出発まで時間がない。

へたくそな英語で、精一杯書いた。
一ページみっちり書いた。
やっぱり彼等に言いたかったのは、
ありがとうという気持ちだった。


そして夜中の別れ、
少し気まずい私たちは
無言で駅に向かう。
彼等のリキシャにのるのは
本当にこれが最後。 
あの街の雰囲気はお祭りの帰りみちのようだ。
私にとっては特別な光景、
でも彼等にとっても、街にとっても、これは日常。
明日は別の客が別の価値観をもってここに乗っている。
また来るねといっても、彼等にはもう会えないだろう。



別れ際、手紙と一緒に、日本から必死にもってきた
「インド人信じられないグッズ」
を彼等にあげた。
チェーン付きの鍵と南京錠。
もう私にこれは要らない。
その代わり彼等の大切なリキシャが盗まれないように。

このグッズを手放して去る。
私はこの旅で2度目のワァワァ泣きをした。


終わり


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